「Maison Margiela(メゾン・マルジェラ)」という名前を聞いたことがあっても、その中身までは知らない──そんな人にこそ届いてほしい、新たな“マルジェラ物語”が始まりました。2025年7月、グレン・マーティンスが同ブランドの新たなクリエイティブ・ディレクターとしてデビュー。過去と未来が交差するショーに世界が注目しています。
■ デコンストラクションの先駆者、マルジェラのルーツ
Maison Margielaは1988年、ベルギー出身のマルタン・マルジェラと実業家:ジェニー・メイレンスによって創設されました。メイレンスは、若く無名だったマルジェラの才能をいち早く見出した実業家であり、ブランド初期を支えた重要人物です。

「縫い目を見せる」「裏地を表にする」など、既成の服づくりに異を唱える“デコンストラクション”手法で知られるマルジェラは、顔を見せない匿名性や、四隅で留めるタグ、モデルの顔を隠したショー演出などで強烈な印象を与えました。それらはファッション界に新たな価値観を示し、「服を再構築する」という思想をファッションの中心に押し上げたのです。

2009年にマルジェラ本人が退任した後はデザインチーム体制を経て、2014年からはジョン・ガリアーノがクリエイティブ・ディレクターに就任。彼は演劇的な演出と詩的な要素でブランドに別の光をもたらしました。
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■ グレン・マーティンスの人物像と経歴
そんなブランドの新時代を担うのが、ベルギー・ブルージュ出身のグレン・マーティンス。建築を学んだ後にファッションへと転身し、ジャン=ポール・ゴルチエのもとで経験を積んだのち、2013年にY/Projectのクリエイティブ・ディレクターに就任しました。

モジュール式の服や実験的なカッティングなどで一気に注目を浴び、2020年にはDieselのCDにも抜擢。デザイン性と商業性のバランス感覚に長けた人物として、現在最も評価されるクリエイターの一人です。
そんなマーティンスが2025年、ジョン・ガリアーノの後任としてマルジェラに就任。ファッション界の視線が一斉に集まりました。
■ 7月9日、パリで披露された“記憶と反逆”のコレクション
デビューコレクションの舞台となったのは、パリのカルチエ現代芸術センター。マーティンスは6つの幻想的な空間を使い、クリスタルや金属、レースで作られたマスクをまとったモデルたちを登場させました。中世ヨーロッパやフランドル絵画から着想を得た重厚な素材と、アップサイクルされた古着やアクセサリーが融合し、神秘的かつ力強い雰囲気を醸し出していました。



一方、VOGUE誌ではマーティンスが愛犬をアトリエに連れてきていたというエピソードも紹介されました。犬はスタッフたちと自然に過ごし、彼の創作の場に寄り添う存在になっていたといいます。この親しみやすさや家庭的な感性は、彼の服にも表れており、冷たさではなく「温もりのある実験性」としてブランドに新しい空気を吹き込んでいます。
■ 継承と刷新の間で──今後のマルジェラ
Maison Margielaは、常に“既成概念を壊すこと”にこだわってきました。その姿勢は今も変わらず、グレン・マーティンスの手によって、より詩的かつ人間味あるかたちで再構築されています。
マルタン・マルジェラが築いた“服の再構築”という思想。ジョン・ガリアーノが魅せた“演出と装飾”の華やかさ。そして、グレン・マーティンスが打ち出す“素材と感情の新しい対話”。これらが織り交ざるように、Maison Margielaは今、大きな変化の渦中にあります。今後の展開も楽しみですね。
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