ジョルジオ・アルマーニ追悼|最後のコレクション「2026年春夏」が示した“静かなエレガンス”の到達点

ジョルジオ・アルマーニ追悼|最後のコレクション「2026年春夏」が示した“静かなエレガンス”の到達点

2025年9月4日、イタリアを代表するファッションデザイナー、ジョルジオ・アルマーニ氏(享年91)がその生涯を閉じました。


そして、そのほんの数か月後——彼が生前に描いた最後のコレクション「2026年春夏(SS26)」がミラノのブレラ美術館にて発表された。 テーマは「調和(Harmony)」。
軽やかな素材と流れるようなシルエット、地中の海の砂や海を思わせる色彩が特徴で、アルマーニが追求してきた「静かなエレガンス」の集大成とも言えるショーでした。

構築に頼らない柔らかいフォルム、砂色やグレイッシュブルーのトーン、そして自然と都会の境界を溶かすような演出。観客の多くが、彼の最後の作品として深い感動に包まれたといいます。

ジョルジオアルマーニ

 

多くの人に愛され続けたジョルジオ・アルマーニ、その功績と人物像についてご紹介したいと思います。

 

■人生の軌跡と医学への夢──医師進むからモード界の頂点へ-出発点は医学部

 

1934年7月11日、北イタリアのピアチェンツァに生まれたアルマーニ氏は、戦闘の不安定な時代を生き抜きました。少年期に爆発しなかった砲弾で重傷を負ったこともあり、人の命や身体の美しさに強い関心を抱いていました。

その経験から医師を志し、ミラノ大学医学部として進学。 しかし3年後に退学し、軍医ヴェローナの軍病院に配属されました。 ここで演劇や美術に触れられたことが、後のデザイン感覚を刺激したと伝えられています。

 

ジョルジオ・アルマーニ

 

■ファッションへの転身──ウィンドウから始まった創作の道

1957年、軍を退いたアルマーニ氏はミラノの老舗百貨店「ラ・リナシェンテ」に入社。ウィンドウディスプレイを担当しながら、素材・光・形の調和を独学で学びます。その後、名門メゾン「チェルッティ(チェルッティ1881)」で経験を積み、1960年代には複数のブランドでデザインを担当。建築のような構成美と、造形感覚を併せ持ち独自のスタイルを磨き上げていきました。


1975年、建築家でありパートナーでもあったセルジオ・ガレオッティと共に「Giorgio Armani S.P.A.」を設立。

翌年のミラノコレクションで初めて披露したメンズプレタポルテは、世界のモード界に鮮烈な印象を残しました。

 

■革新のデザイン哲学──「構築されないジャケット」の衝撃

アルマーニの最大の改革は、スーツを「身体を締める鎧」から「人を解き放つ衣服」に変えたことでした。肩パッドや芯地を排した「アンストラクチャード・ジャケット」は、軽く、柔らかく、動きに自然に寄り添うものでした。

 

ジョルジオ・アルマーニ

 


映画『アメリカン・ジゴロ』(1980年)で俳優リチャード・ギアがこのジャケットを着用すると、その優雅な印象が世界中に広がり、「アルマーニ=エレガンス」のイメージを決定づけました。

 

■ビジネスとライフスタイル帝国──多角化と独立の精神

アルマーニは、ファッションに留まらず、ライフスタイル全体をデザインするブランドへと発展させていきました。

 

エンポリオ アルマーニ、アルマーニ エクスチェンジ、アルマーニ/カーサなど、複数ラインの展開を行い多様な顧客層をカバーしました。また香水、コスメ、ホテル、インテリア、スポーツチームの運営まで拡大し、ファッションのみならずライフスタイルを提供するブランドへと展開させていったのです。

さらなる経営スタイルでは、「唯一の株主」として完全な独立経営を貫き、外部資本に頼らずブランド哲学を守りました。この一貫した信念は、彼が医学部出身の「観察者」であり、同時に「職人」でもあったことに由来していたと言います。


独立経営を行ってきたアルマーニですが、その人柄は華やかなキャリアとは裏腹に、極わめて内省的で謙虚な人物でした。彼の仕事場には常に花と香水があり、社員には「服よりもまず人を見なさい」と語っていたといいます。

 

俳優ハリウッドたちやドナテラ・ヴェルサーチなど同業者からも深い注目を集め、「完璧なスタイルとは、人々がサービスを忘れてその人自身を見ることだ」という彼の言葉は、今もファッション界の指針となっています。

 

 

ジョルジオ・アルマーニ

 



ミラノで開催された「ジョルジオ・アルマーニ 2026SS コレクション」は、彼の集大成であり、次世代への静かな贈り物でした。 軽やかで流れるようなライン、地中海の自然を思わせる色彩、そして「調和(ハーモニー)」というテーマ——すべてが、彼の人生と哲学を象徴するものでした。

医学を志した青年が、世界中の人を癒すような服を作るデザイナーになった…ジョルジオ
・アルマーニが遺したものは、単純なファッションではなく、「人の生き方」を注目する美の言語独特だったのかもしれない。

 

そして、その『静かなエレガンス』は、同時代を生きたもう一人の巨匠——カール・ラガーフェルドとも対照的に響き合います。


次回の第2弾では、モード界を象徴するこの二人のデザイナーがどのように異なり、そしてどの時代のように動いたのかを掘り下げます。

 

 

***********合わせて読みたい***********

【ココシャネル】厳格な修道院で裁縫技術を学び帽子職人としてスタート。女性に勇気を与える名言を数多く残した偉人

******************************

Back to blog