2025年、ファッションデザイナーのコシノジュンコ氏が文化勲章を受章しました。
ファッション分野での受章は極めて稀で、これまでに森英恵氏(1996年)、三宅一生氏(2010年)が受章しており、コシノ氏は3人目となります。
彼ら3人はそれぞれ異なる時代に、日本の美意識と創造力を世界に発信してきました。今回は3人の功績と人物像についてご紹介したいと思います。
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森英恵──「蝶」のように舞い、和と洋をつなぐ女性

「蝶のデザイナー」として知られる森英恵(Hanae Mori)は、戦後まもなく自宅で洋裁を始め、「きれいな服を着たいから作る」という純粋な思いが出発点でした。
映画衣装の製作をきっかけに注目され、1960年代には日本人として初めてパリ・オートクチュール協会に加盟。和の感性と西洋の美意識を融合させたデザインで、“東洋の蝶”と称されました。
彼女の象徴である「蝶」には、自由や再生への願いが込められています。戦後日本を代表する女性として、森氏は「日本の女性が国際舞台で自信を持てるように」と語り続けていました。
晩年も常に上品な笑顔を絶やさず、スタッフを家族のように気遣う温かさで知られ、「人を育てるデザイナー」としても尊敬を集めました。
また、家族を大切にする姿勢も印象的で、息子・森賢氏にブランドを託した際には「蝶は次の花へ舞い移るもの」と言葉を残しています。まさにその生涯が、優雅に羽ばたく蝶のようでした。
三宅一生──「一枚の布」に込めた平和と再生の哲学

三宅一生(Issey Miyake)は、素材や構造から服を再定義した革新者。
広島で生まれ、被爆を経験した幼少期を経て、東京藝術大学でデザインを学びます。その後、パリとニューヨークで経験を積み、1970年にブランドISSEY MIYAKEを設立しました。
彼の代表作「プリーツ プリーズ」や「A-POC(エイポック)」は、機能性と芸術性を兼ね備えた服の革命と評されます。
服を“身体を包む構造物”として捉え、誰もが着やすいデザインを追求。ファッションを社会や科学と結びつけた功績が評価され、2010年に文化勲章を受章しました。
一方で、三宅氏の人柄を象徴するのが「静かなユーモア」。
スタジオでは決して声を荒げず、スタッフに「考える前に作ってみよう」と促す柔らかい指導を行っていたといいます。
また、アップル創業者スティーブ・ジョブズが愛用した黒のタートルネックは、三宅氏が「日本の職人技を世界に知ってほしい」と贈ったもの。技術と誠実さで人と文化を結びつけた稀有な存在でした。
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コシノジュンコ──国境を越え、ファッションで「対話」する女性

そして2025年、文化勲章を受章したコシノジュンコ(Junko Koshino)。
大阪・岸和田の呉服店の娘として生まれ、幼い頃から布や色に親しみました。
文化服装学院を卒業後、コンテストで注目され、1970年代以降、ニューヨーク、パリ、中国、キューバなど世界各地でショーを開催。日本文化をモードとして翻訳し、異文化交流の旗手となりました。
彼女の服は彫刻的で構築的。舞台衣装や建築、スポーツユニフォームにも携わり、服を超えた「空間芸術」として評価されています。
その多彩な活動の背景には、彼女特有のエネルギーと好奇心があり、「ファッションは国境を超える言葉」と語っていました。
また、姉妹であるコシノヒロコ、コシノミチコと常に刺激し合う関係だったことも有名です。「ヒロコがやるなら私はもっと上を行く」と語る負けず嫌いな一面も。
年齢を重ねても挑戦をやめず、学生時代の作品を見返しては「今でも古くない」と笑う姿に、彼女のポジティブさと芯の強さが表れています。
世界でも称えられる“文化の勲章”
世界にも、日本の文化勲章に相当する栄誉があります。
フランスではファレル・ウィリアムスやジャン=ポール・ゴルチエが「レジオン・ドヌール勲章」を受章。イギリスではヴィヴィアン・ウエストウッドが「デイム(Dame)」の称号を授与されました。いずれも国の文化を世界に広めた功績として評価されています。
こうして見ていくと、森英恵・三宅一生・コシノジュンコの3人は、まさに日本の「文化と創造の象徴」ともいえるでしょう。彼らの歩みは、ファッションが単なる装いではなく、“生き方を映す文化”であることを教えてくれます。
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